マンション建て替えの年数や費用、建て替え成功がラッキーな所以を解説

カテゴリ:マンション売却
投稿日:2025.04.23

マンション建て替えのラッキーな事例:南青山リハイム(1970年5月築)2021年9月マンション建替え決議(区分所有法第62条)/2022年9月権利変換計画決議(マンション建替え等の円滑化に関する法律第57条・27条)/2023年4月地上解体工事着工/2024年10月再建マンション工事着工/2027年5月再建マンション竣工(予定)
■南青山リハイム/2021年マンション建替え決議/2022年権利変換計画決議/2023年地上解体工事着工/2024年再建マンション工事着工

今回はマンション建て替えの問題について、2回に分けて考えていきます。

<前編>では、マンション建て替え問題の背景や実情などを、国土交通省や東京都のデータや実態調査などを使って解説していきます。

<後編>では、マンション建て替えに成功した実例を詳しくみながら、マンション建て替えが成功する条件などを考察していきます。

ちなみに本記事でのマンションとは、分譲マンションのことを指しています。

目次

マンション建て替え法改正

マンション建て替えの要件緩和

2025年3月4日、マンションの建て替え要件などを緩和する改正法案が政府によって閣議決定した旨、新聞各社が報じました。

基本的な権利関係を定めた区分所有法などをまとめたかたちで「マンションの管理・再生の円滑化等のための改正法案」として通常国会に提出され、法案が成立すれば一部を除いて2026年4月の施行を目指しています。具体的な改正の内容は後述します。

耐震性に不足がありながら、耐震補強や自主的な建て替えが困難になっている老朽マンションの問題が取り上げられるようになってから久しくたちますが、問題解決の道筋がまったく見えないというのが現実です。今般の改正を含め、たびたび建て替え要件が緩和されていることが、問題の難しさを物語っています。

マンション建て替えの容積率緩和等

耐震性に問題を抱える老朽マンションの建て替えが遅々として進まず、南海トラフ巨大地震や首都直下地震などによる被害への懸念が高まるなか、2014年(平成26年)に「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」(マンション建替法)が改正されました。

改正では老朽マンションの建て替え促進のために、マンション敷地売却制度の創設と容積率の緩和特例の2つの施策が新たに盛り込まれました。

区分所有法では、マンションを取り壊して区分所有関係を解消するための取り決めがないため、これまでは、民法による全員の同意が必要とされ、マンションを取り壊して敷地を売却することは、事実上、不可能でした。

改正により、行政から「要除去認定マンション」に認定されたマンションでは、区分所有者の4/5の賛成で敷地売却が可能になり、さまざまな理由で建て替えが困難な場合の選択肢として、敷地の売却による区分所有関係を解消することが以前に比べ容易になりました。

容積率の緩和特例は、「要除去認定マンション」が建て替えを行う場合、一定の敷地規模を有し、市街地環境の整備・改善に資するものについて、容積率制限が緩和される措置です。

容積率制限の緩和の内容は、従来からの総合設計制度における容積率緩和の要件を緩め、東京都の場合は対象が都内全域に広がり、より少ない公開空地でも割り増しが受けられるようになりました。

マンション建て替えの要除去マンション要件追加

2020年(令和2年)6月の改正(「マンションの建替え等の円滑化に関する法律の一部を改正する法律案」閣議決定)では、要除去認定マンションの要件が追加されています。

「要除去マンション」とは、「耐震性の不足」、「火災に対する安全性の不足」や「外壁等の剥落により周辺に危害を生ずるおそれ」などのいずれかに該当(「特定要除却認定」)または、「給排水管の腐食等により著しく衛生上有害となるおそれ」や、「バリアフリー基準への不適合」等も条件に当てはまるマンションです。

【要除去認定の対象】

マンション建て替え法改正/マンション建て替えの要除去マンション要件追加|令和2年
出所:マンション建替法による要除去認定

出典:東京都マンションポータルサイト

マンション建て替え決議4分の3等

冒頭で述べた2025年(令和7年)に閣議決定された具体的な法改正の内容は以下の通りです。

建て替えの基本要件である区分所有者の4/5以上の賛成という点に変更はありませんが、改正案では、耐震性に問題がある場合には、3/4以上での賛成で建て替えが可能になります。また、現行法では区分所有者全員の賛成が必要とされる1棟リノべや取り壊しに関する要件は、4/5以上の賛成に、さらにこの場合も耐震性に問題があるマンションの場合は3/4以上の賛成に要件が緩和されます。

また隣接地などを取り込んで建て替える場合に、現行法では物件の敷地の外の権利者に区分所有権を付与することはできませんが(敷地外の地権者には補償費等を支払って事業に組み込む必要があります)、改正案では敷地外の所有権と引き換えにマンションの区分所有権を取得できるように緩和されます。

マンション建て替え法改正/マンション建て替え決議4分の3等|令和7年

マンション建て替え問題の現実

マンション建て替え件数

実際に建て替えられたマンションの数は、どのぐらいあるのでしょうか?

マンション建て替え問題の現実/マンション建て替え件数
出所:マンション建替え等の実施状況(2024(令和6年)年4月1日現在)

出典:国土交通省「マンションに関する統計・データ等」

2024年4月1日(令和6年4月1日)時点で、全国で建て替えが実施されたマンションは、累計で297件・約24,000戸にとどまっています。

旧耐震マンションの詳細は後述しますが、耐震性に不安を残した旧耐震マンションのストックが約103万戸という数字に比して、過去20年間あまりの期間で、建て替えが実施されたマンションの数がわずか約24,000戸という数字が、マンション建て替え問題の深刻さを表しています。

マンション建て替え問題の深刻さ

マンション建て替えの最大の問題は、旧耐震マンションのストックが全国で100万戸超あり、建て替えが遅々として進まないなか、その大多数が耐震性に不安を抱えながら、年々老朽化が進行しているということです。

マンション建て替えの第2の問題は、今後、老朽化したマンション数が急速に増加することが予測されることです。

マンション建て替え年数の目安

マンション建て替え年数の目安/ライオンズマンション玉堤(1979年築)
■ライオンズマンション玉堤(1979年築)

マンション建て替え平均年数は築40.4年

東京カンテイによる全国の282件のマンション建替え事例調査によると、その平均の築年数(マンション竣工からマンション建替竣工まで)は、平均で40.4年、最多が築40年以上50年未満で34.4%という結果でした。建替えが視野に入る目安は築40年以降というのが実態のようです。(*全国マンション建替え事例282件を徹底検証 出典:東京カンテイサイト

マンション建て替え時期

マンション建て替え時期を迎えた136.9万戸

国土交通省の予測によれば、築40年の分譲マンション数は、2023年(令和5年)末で136.9万戸あります。

【築40年以上の分譲マンション数の推移】

マンション建て替え時期/マンション建て替え時期を迎えた136.9万戸/建て替え時期を迎えるマンションは年々増加
出所:築40年以上の分譲マンション数の推移(2023(令和5)年末現在)

出典:国土交通省「マンションに関する統計・データ等」

建て替え時期を迎えるマンションは年々増加

10年後の2033年末で約2.0倍の274.39万戸、20年後の2043年末では約3.4倍の463.8万戸にのぼる見込みです。

マンション建て替えの課題

マンション建て替えが遅々として進まない理由はなんでしょうか?

下は東京都のマンション実態調査のなかで分譲マンションの管理組合に対する「建替え検討時の課題」という質問への回答結果です。

【建替え検討時の課題】

マンション建て替えの課題/マンション実態調査
出所:マンション実態調査 2013年(平成25年)3月

出典:東京都マンションポータルサイト

高齢になった区分所有者への対応が難しいこと、建て替え費用の問題、建て替えによって建物面積が縮小してしまうこと、建て替えに対する認識や理解が進まず合意形成が難しいことなどが上位に挙げられています。

続いては、東京都の「建替え検討時の課題」などから見えてくるマンション建て替えに関する下記3つの課題について詳しく解説していきます。

  1. 住民の合意形成(高齢者等対応、建て替え不要論、仮住まい問題など)
  2. マンション建て替え費用
  3. 建て替えマンションの立地の市場性

マンション建て替えと住民の合意形成

マンション建て替えが進まない理由の第1は、区分所有者の合意形成が困難であることがあげられます。

マンション建て替え同意への障害

特に築年数が古くなればなるほど居住者の高齢化が進み、新たな住居の取得、2度の引っ越し、費用負担などを重荷に思う人々が多くなり、建て替えへの賛同を得るのが難しくなります。長い間に賃貸化が進み、当事者意識が薄れている区分所有者が増えていることなども合意形成を難しくさせる一因です。

下の2つのグラフは、国土交通省による「令和5年度マンション総合調査」において、築40年超(調査時点で完成年次が1984年以前)の物件の区分所有者からの回答です。 

「耐震性について」への回答では、なんらか不安に思っている人の合計は76.7%と約8割にのぼる一方で、全体の43.2%の所有者は「地震の不安があるが、今のままで仕方がない」となすすべもないままに不安な状態を諦めてる様子がうかがえます。

マンション建て替えと住民の合意形成/耐震性について(築40年超物件の区分所有者)
出所:令和5年度マンション総合調査 国土交通省 令和6年6月

出典:国土交通省「マンションに関する統計・データ等」

マンション建て替えに反対・必要無しが多数

「建替えの必要性についての考え方」への回答では、「修繕または改修工事をしっかり実施すれば建替えは必要ない」と答えた所有者が70.3%を占め、「建替えが必要である」と答えた人はわずか1.8%しかいません。

マンション建て替えと住民の合意形成/建替えの必要性についての考え(築40年超物件の区分所有者)
出所:令和5年度マンション総合調査 国土交通省 令和6年6月

出典:国土交通省「マンションに関する統計・データ等」

一般に建て替え時期の節目といわれる築40年を過ぎたマンションの区分所有者においても、その意識は、必ずしも建て替えを視野に入れている訳ではないということがうかがえます。建て替えに対する認識や理解が希薄ななかで、多数の合意を得るのは事実上不可能と言えます。

マンション建て替えの費用

マンション建て替えが進まない理由の第2は、建て替え資金の捻出の問題です。

マンション建て替え費用が払えない

現状で容積に残余がある、あるいは容積率の割り増しが許可されるなどにより、建て替えによってマンションの床面積が増えなければ、解体費、コンサルティング費用、設計費用、仮住まい費用、建築費など建て替えに必要なすべての費用を基本的には現在の区分所有者が負担することになります。

現実問題として、建て替えに際して多額の費用を負担できる区分所有者は多くはありません。高齢の居住者が多い老朽化マンションに至ってはなおさらです。

建て替えを実現するためには、区分所有者の費用負担をできる限り抑える、できれば負担なしとすることが必要です。

マンション建て替え費用は誰が払う

床面積(住戸数)が増えて、それが販売できれば、建て替え資金と事業をコーディネートするディベロッパーなどの利益を賄って、旧区分所有者の負担なしで(あるいは最小限で)建て替えが可能ですが、そうでない場合は、建て替え費用は旧区分所有者が負担しなければなりません。。

容積に残余があるマンションは多くはありません。逆に建て替えによって床面積が減少してしまうマンションも少なくありません。昨今の建築費の高騰も、さらなる足かせとなっています。

マンション建て替え費用相場

マンション建て替えには1,000~3,000万円程度/戸当たりの資金が必要とされると言われています。

下のグラフは国土交通省のマンション政策小委員会の2024年(令和6年)11月7日の資料です。

【建替えに際しての区分所有者の負担額の増加】

マンション建て替えの費用相場/マンション建替事業の実施年代別 建替後の利用容積率に対する建替前の利用容積率
出所:マンション政策小委員会2024年(令和6年)
マンション建て替えの費用相場/マンション建替事業の実施年代別 区分所有者の平均負担額
出所:マンション政策小委員会2024年(令和6年)

出典:国土交通省 社会資本整備審議会

建て替えの従前と従後の利用容積率の差が年々縮小し、それに伴って、区分所有者の負担額が増大しているのが分かります。直近の2017-2021年では、区分所有者の負担額は平均1,941万円と約2,000万円にのぼっています。

負担額は、現在の住居の床面積、取得する住居の床面積、住戸の仕様などによって異なってきます。

住宅着工統計(2024年)の東京都のRC造・共同住宅(分譲住宅)の工事予定額は、床面積当たり@43万円/㎡となっています。

仮に東京都において、再建マンションの60㎡(共用部分の負担割合の面積含む)の住戸を取得する場合、建物の建築費用だけで約2,500万円の資金が必要になるという試算になります。

マンション建て替えよりそのまま売却

マンション建て替え実績No1の旭化成不動産レジデンス株式会社のウェブサイト「マンション建て替え研究所」では、建て替えによって面積が増えない場合、従前の資産評価が、中古マンションで売却した場合よりも下回る場合もあると、解説されています。(*マンションを建て替えるタイミングや流れとは?方法と費用も解説 出典:マンション建て替え研究所 旭化成不動産レジデンス株式会社

言い換えれば、建て替え後のマンションの床面積が増えない場合は、建て替えするよりも、中古マンションで売却した方が資産価値という面では有利な場合(建て替えに参画する際の資産評価額よりも高い金額で売却できる場合)もあるということになります。

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マンション建て替えに賛成多数でも

マンション建て替えが進まない理由の第3は、立地の市場性の問題です。

建て替えマンションの市場性

マンション建て替えに賛成多数でも/建て替えマンションの市場性/南青山リハイム建て替えマンション外観イメージ(2027年完成予定)
■南青山リハイム建て替えマンション外観イメージ/出所:南青山リハイムマンション建替組合資料

容積に残余があり、あるいは容積率の割り増しが許可され、4/5の区分所有者の賛同を得られた場合でも、建替え事業を実現するには、事業をコーディネートするディベロッパーなどが事業推進可能と判断できる立地でなければなりません。

具体的には、増えた分の住戸がふさわしい価格で販売できるかどうか、需要を見込める立地なのかどうかということがポイントになります。今まで建て替えが実現できたマンションの立地のほとんどは、都心の好立地か駅近の高利便のマンションです。

マンション建て替えできない地域とできる地域

マンション建て替えできない地域とできる地域:南青山リハイムマンション建替事業|建築計画のお知らせ
■南青山リハイムマンション建替事業|建築計画のお知らせ

今後加速する人口減少は、再建マンションの販売の市場性が見込めるマンションと市場性が見込めず事実上建て替えができないマンションという、二極化傾向に拍車をかけるものと想像できます。

 マンション建て替えがラッキーと言われる所以

東京都マンション建て替え実施率は1%未満

下はマンション建替法に基づく東京都におけるマンション建替えの実績(許可件数・年度ベース・分譲マンションのみ)の推移です。

マンション建て替えがラッキーと言われる所以/東京都のマンション建て替え実施率は1%未満
出所:マンション建替え事業事例一覧より

出典:東京都マンションポータルサイト

件数/年累計
2003年33
2004年25
2005年49
2006年312
2007年315
2008年217
2009年219
2010年524
2011年529
2012年332
2013年537
2014年441
2015年42
2016年749
2017年655
2018年661
2019年465
2020年873
2021年881
2022年586
2023年894

マンション建替法(2002)、改正マンション建替法(2014)以降、コンスタントに建て替えが行われてはいるものの、2023年度(令和5年度)末で累計94件とそのペースは遅々としたものです。

東京都には旧耐震の分譲マンションのストックは11,892件(後述する「マンション実態調査結果」)あります。仮に建て替えられたマンションがすべて旧耐震マンションだとして、その建て替え実施率は1%未満と驚くほど少ない水準です。

老朽化マンションの行く末

老朽マンション建て替えのために度重なる規制緩和が行われている背景には、こうした待ったなしの現実があります。

もはや建て替えだけではマンション再生は困難という現実………。

今回の法改正がどのくらい効果を上げるのかは未知数です。事態は流動的であり、将来は見通せませんが、ここ20年余の間に矢継ぎ早にマンション建て替えに関するさまざまな施策が打ち出されてきた過程を見る限り、マンションを現行の区分所有法のなかで建て替えることは極めて困難であるということが徐々に明らかになってきたと言えるのではないでしょうか。

老朽化マンション対策に建て替え以外の選択肢

2025年3月の改正案の正式名称は「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律案」というものです。

マンション建て替えがラッキーと言われる所以/老朽化マンション対策に建て替え以外の選択肢:老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律案
出所:マンションの管理・再生の円滑化等のための改正法案を閣議決定
~新築から再生までのライフサイクル全体を見通した取組~|国土交通省

いつの間にか法案名から「建替え」の文字が消えているのに気づきます。下の国土交通省の資料には、改正案の中身が挙げられています。

「1.管理の円滑化等」の狙いは、適正な管理を促し、必要な修繕や改良を実施しやすくし、マンションを健全な状態でなるべく長持ちさせる、いわばマンション長寿化施策です。

「2.再生の円滑化等」では、マンション再生において、建物・敷地の一括売却、一棟リノベーション、建物の取り壊しなど、建て替え以外の再生の選択肢を創設することが謳われております。

いずれも、これからは建て替え一辺倒では、老朽化マンションの問題に対処することは難しいという現実認識がその背後にあることが伺えます。

今後、マンション建て替えはどうなる?

以上のようにマンション建て替えは極めて困難で深刻な問題です。

そのうえで区分所有者として既にマンションに居住している人、あるいはこれから新築マンションの購入や中古マンションを買ってリノベーションを考えている人へアドバイスするとしたら、以下のことが考えられます。

マンション建て替えは困難という現実

マンション建て替え問題は、現在(あるいは当面)は耐震性不足の老朽マンションの問題として顕在化していますが、マンション建て替えの難しさという問題は、すべてのマンションに共通する問題です。現在、700万戸を超えるマンションストックのすべては、いずれ老朽化の時期を迎えます。今後はすべてのマンションにおいて、建て替えは容易ではないという現実を踏まえながら、マンションの将来に対する長期的な展望が求められるようになると言えます。

マンションの建て替えが困難な大きな理由の一つが区分所有者の合意形成でした。マンションは自分ひとりでその将来を決められない運命共同体の住まいといえます。建て替えにしても、修繕で延命を図るにしても、区分所有関係解消による敷地売却にしても、マンションの将来を主体的に決定していくためには、当事者としての区分所有者の自覚とコミットが求められます。住民自治の母体となる管理組合の組織と運営がますます重要になってくることは間違いありません。

マンション建て替えの実現要件は立地

人口減少時代における容積率緩和による建て替え促進は、立地の淘汰を生み出します。容積率緩和により建て替えを実現するには、新設住戸の販売が見込める立地でなければなりません。敷地を売却する場合も、購入者が見込める立地でなければなければなりません。人口減少時代に住宅需要が見込める立地は、かつてのマンション立地よりも相対的に利便性やアメニティが高い立地に限られてくるでしょう。建て替えられるマンションと建て替えられないマンション、敷地が売却できるマンションとできないマンションの二極化が進むと予測されます。

老朽化マンションはどうなる?

老朽マンションの建て替えがなかなか進まない一方で、人口減少社会における都市のコンパクト化に向けて、土地の効率的利用と集合居住は重要であり、地震国日本における都市の防災には建物の耐震化が不可欠であることは論を待ちません。マンション建て替えの問題は、喫緊の都市の課題であり、さらに今後ますます深刻さを増していくことが予想されます。こうした現実を視点を変えて考えてみると、おそらくこれからもその時々の状況に応じてさまざまな施策が検討・実施される可能性が高いと見ることもできます。困難な現実が議論と創意を生み、将来を大きく変える可能性もあるということです。

マンション建て替え問題は、都市住宅のあり方、都市市民としての自覚、住民自治の実践という、古くて新しい問題を突きつけています。

最後に旧耐震マンションの現状を解説します。

旧耐震マンション

旧耐震マンションの戸数

2023年(令和5年)末現在で、全国の分譲マンションストックは約704.3万戸。うち旧耐震基準(建築確認が1981年6月1日以前の物件)のマンションは約103万戸あります。

【分譲マンションストック数の推移】

旧耐震マンションの戸数【分譲マンションストック数の推移】
出所:分譲マンションストック数の推移(2023年(令和5年)末現在)

出典:国土交通省「マンションに関する統計・データ等」

旧耐震マンションと耐震補強

こうした旧耐震マンションの多くは、耐震診断や耐震補強などが行われていないのが実態です。

旧耐震マンションの多くが立地する東京都の調査によると、旧耐震のマンションは2013年時点で、11,892棟、そのうちで耐震診断を実施したのは17.1%、耐震改修の実施率は5.9%と、ほとんどの旧耐震マンションは、耐震性の確認や耐震補強が行なわれていません(出典東京都都市整備局「マンション実態調査結果」、2013年(平成25年)3月公表)

全国のマンションを調査対象にした国土交通省の「令和5年度マンション総合調査」では、旧耐震マンションで「耐震調査を実施した」のは31.6%、そのうち54.2%が「耐震性がある」と判断され、25%が「耐震性がない」と判断される結果となっています。さらに「耐震性がない」と判断されたマンションのうち、「耐震改修を実施した」割合は45.8%にとどまっています。

旧耐震マンションと耐震補強/旧耐震マンションの耐震診断実施状況
出所:令和5年度マンション総合調査 国土交通省 令和6年6月 

出典:国土交通省「マンションに関する統計・データ等」

以上


大村先生(執筆
大村哲弥 有限会社プロジェ代表  projet-ltd.co.jp/

1984年、セゾングループのディベロッパー株式会社西洋環境開発に入社。住宅・マンション事業のマーケティング・商品企画・事業企画に従事する。バブル前夜からバブル崩壊とその後のカルチャーシーンのなかで20歳代、30歳代を過ごし、不動産ビジネスに携わる。1996年、有限会社プロジェ設立。不動産・住宅・マンション分野のコンサルティング・商品企画・建築デザイン・プロモーション戦略・執筆などを手がける。

東京工業大学大学院修士課程修了。一級建築士。

本・映画・音楽・アート・デザイン・ファッション・都市・建築・食・料理・ワイン・まち歩きなどのフィールドを横断的に渉猟・論考するnoteを主宰。

note:tetsuya omura