マンションの権利書を紛失、売却方法と注意点

カテゴリ:マンション売却
投稿日:2022.10.21

マンションの権利書を紛失、売却方法と注意点

マンションの売却を検討しているとマンションを購入したときの売買契約書や相続によりマンションを取得したときは相続関係書類の一式を探し出すことから始まります。

その際、マンションの登記の権利書がない、紛失したと大騒ぎすることがあります。

権利書は大切なものであることはわかるけど、一般のご家庭では日常で使用するものではありません。

そのためにどこにしまい込んだか分からず紛失となってしまいます。

今回は、マンションの売却を検討しているが、マンションを取得した際に交付を受けた権利書を紛失した場合、どのように売却手続きが進んでいくのかをお話しします。

権利書を紛失してもマンションの売却はできます。

マンションの権利書とは

マンション等不動産の取引で使用されている権利書は2種類あります。

ひとつは昔から使用されている「登記済権利証」です。

一般的には「権利書」・「登記済証」と言われています。

他方は、平成17年施行の不動産登記法改正により登記済権利証に代わり導入された「登記識別情報」の通知による制度です。「登記識別情報通知」と言われております。

この2種類とも有効な権利書としてマンションを売却をする際には、必要な書類又は情報となります。

法改正がされたからと言って、従来の登記済権利証が無効となるものではありません。

従前の権利書(登記済権利証・権利証)とは

従来、マンションの所有権の移転登記を管轄の法務局へ申請する際、登記申請書と同じもの(副本)を添付していました。

法務局はこの副本の不動産の表示がされている箇所に「登記済証」の朱印を押印していました。

この朱印を押された書類が権利書・登記済権利証です。

権利書は、マンションなど不動産の新たな所有権を取得した人に発行されます。

マンションの権利書を紛失、売却方法と注意点-マンションの権利書とは

登記済証はこれを所持することによって、この所持者がマンションの登記簿上の名義人であろうと確認することに活用します。

また、登記済証の形式・形状等を確認することで真正を担保することもできます。

登記識別情報

平成17年3月7日に施行された不動産登記法改正により不動産の登記申請がネットで出来るようになりました。

それにより文書等を添付書面として提出せずに、インターネットにより電子情報を送信することにより情報提供を管轄法務局にすることができるようになりました。

そこで、従来はマンション等の所有権を取得した登記名義人に交付されていた権利済証に代わり、登記識別情報が通知されるようになりました。

マンションの権利書を紛失、売却方法と注意点-登記識別情報

法務省参照HP

従来は、マンションの登記済証を所持していることによって、当該所持者が当該マンションの登記名義人であろうと確認ができました。

他方、登記識別情報は、上記サンプルのとおり書面により12桁の符号の情報が発行されますが、書面自体は重要ではなく12桁の英数字の符号を知っていることこそが、登記名義人であろうと確認する手段となります。

従って、12桁の符号を他人に見られ記憶されてしまうと従来の権利済証を盗まれたのと同じということになります。

そのため、登記識別情報の通知は符号を目隠しした状態で発行されます。

マンションの権利書がないことに気が付いたらどうするべきか?

権利書がないと気が付いたときはドキッとすることでしょう!

仮に誰かがマンションの権利書を持ち出しても、それだけではマンションの名義を他人名義に変更することはできません。

まずは、マンションの登記事項証明書(登記簿謄本)を最寄りの法務局で取得しましょう。

最新の登記事項証明書(登記簿謄本)で自身が最終の所有者であることが確認できれば一安心です。

法務局へは権利書の紛失した旨を伝えてください。

実印と印鑑証明書までもが紛失している際は、市区町村役場で改印届をすることをお勧めします。改印届け出後に再度登記事項証明書を取得し、登記事項を確認してください。

内容に変更がなければひと安心です。

紛失したのが登記識別情報通知書の場合は、マンションを取得した際に通知された登記識別情報を失効させ、使用できなくすることができます。

失効させると今後は使用できなくなります。

今後、マンションをどのように活用・処分するのかを考慮し慎重に判断することになります。

なお、登記済証・登記識別情報はともに紛失しても再発行はされないため、大切に保管することが大切です。

権利書を紛失したマンションを売却する方法

マンションを売却する際に登記識別情報や登記済証といった権利書は原則必要です。

買主様名義に登記をする際に管轄の法務局に提供することとなります。

しかし、権利書がないからといって売却ができないわけではありません。

長いこと暮らしている築古のマンションの権利書は生活しているうちにどこかへ行ってしまうことはあり得ることです。

そこで、権利証を紛失してもマンションを売却し所有権を買主へ移転できる方法が3つあります。

【権利書紛失の解決策】

◇事前通知制度

◇資格者代理人による本人確認情報の作成

◇公証人の認証による事前通知の省略

以下、それぞれの手続きについて見ていきたいと思います。

事前通知制度

事前通知制度とは以下のような「なりすまし防止」のための法制度です。

権利書がないままマンションの所有権移転の登記申請はしてしまいます。

登記事項証明書(登記簿謄本)の登記名義人たる本人の意思を確認するために、管轄法務局から売主たる登記申請人へ「どの不動産について登記申請がいついつなされていますが登記申請をしましたか」さらに、「確かにそのとおり登記を申請し真実ですか」と質問状のようなものが本人限定受取郵便にて郵送されてきます。

その通知が法務局から発送されてから2週間以内に登記が真実であることを証して回答欄に署名・捺印(実印)をして法務局へ返送します。

この2週間という期限が切れてしまうとマンションの所有権移転登記の申請は法務局により却下されてしまいます。

【前住所通知制度】

事前通知とともに行われる売主本人への確認として、前住所通知制度があります。

この制度は、所有権に関する登記申請で、かつ売主たる登記名義人の住所について変更・更正の登記がされているときは原則として、登記記録上の登記名義人の前住所に転送不要で通知される制度です。

本来であれば、登記名義人は前住所では暮らしていないため前住所通知は法務局へ宛先人不明で返送されることになります。

これも登記記録上の登記名義人の権利を守るための「なりすまし防止」で、悪意ある者が事前に自分のところへの住所変更登記をして、事前通知を受領できるように通知先をうまいこと変えてしまうことへの防止策です。

全てにおいて前住所通知がされるわけではありません。

例えば次のような場合は不要となります。

□登記名義人の住所についての変更が、行政区画もしくはその名称または字の変更を登記原因とする場合

□住所の変更登記をされてから3ヶ月を経過している場合

□資格者代理人による本人確認情報の提供があった場合において当該本人確認情報の内容により売主たる申請人が登記名義人であることが確実であると認められる場合

このように事前通知制度の活用は登記が完了するまでに時間がかかるという点、最も大きな影響があるのは売主である登記の申請人が法務局からの事前通知に対して返送しなかった場合は、登記申請が却下されてしまうことです。

買主は売主に売買代金を支払っているのに買主への所有権の移転登記ができないという事態が生じます。

また、買主が住宅ローンを組んでマンションを購入する場合は、融資元である銀行が担保権を設定できない事態が生じうる取引を認容することはありません。

このような不安定な制度をマンションの売買で活用することは現実的ではないといえます。

知れている個人間、例えば親族間のような場合には、リスクを承知の上で活用することも一考かもしれません。

資格者代理人による本人確認情報の作成

前述のとおり事前通知制度は、登記名義人のなりすまし防止のため法務局からの事前通知に対する登記申請が真正たる旨の返信を予定しています。そのためマンション取引が不安定におかれることから実務では基本的には使われません。

実務で活用されるのが資格者代理人による本人確認情報の提供制度です。

資格者代理人による本人確認情報とは、権利証を紛失した場合において、司法書士などの専門職が登記の代理申請をする場合に、登記申請人が登記名義人たる本人であることを証明する本人確認情報を提供し、かつ、管轄法務局の登記官がその内容を相当であると認めるときは、事前通知手続きを省略することができる制度です。

では、ここでは本人確認情報の作成の流れについて詳しく見ていくことにしましょう!

【具体的な本人確認情報の作成の流れ】

資格者代理人たる司法書士が、権利書を紛失した売主たる登記簿上の名義人と日程調整し実際に面談をします。

面談する司法書士は登記申請を代理する司法書士である必要があります。

本人確認情報の作成のみを代理することはできず、本人確認情報を作成した司法書士がマンションの移転登記申請も代理することになります。

面談の際には、本人確認情報作成のために予め準備してもらっている資料を確認し、ヒアリングをします。

面談者が確かに登記名義人たる対象マンションの所有者であるかを確認していきます。

具体的には、マンションの所有権を取得した経緯、権利証を紛失した理由を聞き取って確認していきます。

面談の際、下記の資料を確認します。

【面談者の本人確認資料】

顔写真付きの公的身分証で、氏名、住所、生年月日の記載がある本人確認資料(1号書類)であれば、1点以上の提示

□運転免許証

□運転経歴証明書

□マイナンバーカード(個人番号カード)

□住民基本台帳カード

□パスポート(旅券)

□特別永住者証明書

□在留カード

顔写真付きの公的身分証(2号書類)がない場合は、氏名、住所および生年月日の記載がある本人確認資料2点以上の提示

□国民健康保険証、健康保険証、船員保険証、介護保険証、後期高齢者医療被保険者証

□健康保険日雇特例被保険者手帳

□国家・地方公務員共済組合員証

□私立学校教職員共済加入者証

□国民年金手帳

□児童扶養手当証書

□特別児童扶養手当証書

□母子健康手帳

□特別児童扶養手当証書

□身体障がい者手帳

□精神障がい者保健福祉手帳

□療育手帳

□戦傷病者手帳

上記の2号書類が1点しかない場合には、さらに下記の本人確認資料(3号書類)のうち10点以上の提示

□官公庁から発行、発給された書類その他これに準ずるもので、氏名、住所および生年月日の記載があるもの

 ・住民票

 ・官公庁から発行される社員証

 ・国家資格の合格証・免許証

 ・許可証

 ※印鑑証明書は登記申請の際の添付書類となるため不可

以上の本人確認資料は、面談時に有効なものであり、有効期間が切れている身分証明書は認められません。

【マンションの取得を証明する書類】

次の不動産との関連書類により面談者が当該マンションの登記名義人かを確認していきます。

□マンション購入時の売買契約書・重要事項説明書・領収書

□マンションを相続で取得した際の遺産分割協議書・相続関係書類一式・相続税の納税申告書

□固定資産税納税通知書・領収書

□公共料金(電気、ガス、水道、電話)の領収書(3ヶ月分程度)

面談をしてヒアリング調査をした結果を面談した司法書士が本人確認情報として書面化します。

作成した本人確認情報を権利書の代わりとして、作成司法書士の責任の下に登記申請書に添付して管轄法務局に提出します。

本人確認情報の活用は、事前通知と異なり前住所通知も省略されます。

【司法書士による本人確認情報の作成費用】

権利書を紛失した場合、本人確認情報制度はマンション売買にかかわる利害関係人にとって活用しやすい制度といえます。

ポイントは、司法書士に対する本人確認情報作成費用が発生することです。

作成費用に関しては各司法書士事務所によって異なります。

一般的な相場感としては7万円~12万円程度かと思います。

この費用を高額と感じる方も多いかもしれません。

しかし、マンションの売買代金は数千万以上の金額で取引されています。

仮に売買の金額が1億円となれば、権利証がないことによりマンションの売買取引に問題が生じると本人確認情報を作成した司法書士は1億円の責任を負うことになります。

本人確認情報の作成は非常に重い責任を負うため、マンションの取引事案によっては数十万円の報酬が発生することもあります。

公証役場による本人確認

権利証等を紛失した場合の本人確認情報は、司法書士などの資格者代理人のみではなく公証人も本人確認をして作成することができます。

近隣の公証人役場にて本人確認の証明をしてもらい、登記申請の際に、公証人の認証した文書を登記申請書と一緒に登記所に提出します。内容が適正であると管轄法務局の登記官が判断すれば、資格者代理人による本人確認情報制度と同様に事前通知を省略して登記手続きができます。

具体的には、公証役場へ司法書士に対する登記申請代理の委任状を事前に作成して持参します。

公証人の面前で登記用の委任状に、署名・実印にて押印します。

実印を押印する以上は印鑑証明書の準備も必要となります。

公証人が間違いなく本人であると確認し、委任状に「確かにご本人に間違いありません」という認証文言を付してもらいます。

司法書士の資格者代理人の本人確認情報制度の場合と同様に、運転免許証、パスポート等の身分証明書の準備も併せて必要です。

公証人の本人確認の認証手数料は、通常、3500円の認証手数料だけで済むと思われます。

しかし、資格者代理人による本人確認情報制度と比べると公証役場による本人確認による認証はあまり用いられていません。

ひとつは、公証役場での本人確認は司法書士等がする本人確認と比べると丁寧ではないということです。

売主の「なりすまし防止」の観点からすると買主としては、売買代金を支払う以上は丁寧な本人確認をしてほしいというのが本音といえます。

なりすましの売主と取引をした買主は大きな損失を負うことになります。

また、当該マンションの取引にかかわる不動産会社や司法書士にとっても軽視できないポイントです。

もう一つは、登記申請代理人たる司法書士に提出する書類の準備、基本的には委任状の準備や公証人役場を探し自分で出向くこととなるため、登記手続に慣れてない一個人たる売主が自ら行うには時間と手間がかかるかもしれません。

権利書が紛失したマンションを売却する場合の注意点

時間的ゆとりを持つ

マンションを売却する際は、売買契約後の残代金決済時に所有権が移転し所有権移転の登記をすることになります。

残代金決済日の直前になって権利書の紛失が分かって申し出されても対応できない場合があります。

確かに、司法書士による本人確認情報の作成で権利証がなくてもマンションの移転手続きは可能です。

しかし、前述したとおり本人確認情報の作成には法的にとても大きな責任が課されます。

登記簿の登記名義人たる売主に予め必要書類の案内をするなど事前準備が必要となります。さらに対面による面談のため日程の調整も必要となります。

権利書が紛失している場合は時間的ゆとりをもって売却手続きを進めていきましょう。

残代金の決済が準備不足により中止となる事態は、買主・不動産会社・司法書士や保険会社といった利害関係人が多いことからも避けるべきです。

権利証を再度確認する

マンションの権利書を紛失した売主さんが、本人確認情報を作成する際の司法書士の費用を聞いた際に報酬額に驚いて、再度、探してみると保管すべき場所にちゃんと保管していたということがよくあります。

権利書を紛失したと思った場合でも、家族と権利書の保管場所につき話し合い、再度、ご家庭独自の大切な書類関係を保管する場所や自宅の金庫、金融機関の金庫などありがちな場所を落ち着いて探してみましょう。

相続登記の際は不要

マンションの所有者が亡くなり、相続登記をする際に、確かに権利書が必要な場合もありますが、基本的には権利書なく相続登記ができます。

しかし、権利書を紛失している状態はリスクがあります。

可能な限り速やかに相続登記をして、新しい登記名義人の権利書・登記識別情報通知を取得しましょう。

関連記事:マンション相続登記の手続き、必要書類、費用を解説

権利証書は発行されていない場合もある

マンションの所有者が亡くなりマンションの名義人を相続人全員で共有する法定相続割合で登記する場合に、稀に相続人の一部から相続登記をする方がいらっしゃいます。

その場合は、各相続人の名義と持分が登記簿に記載されますが、権利書が法務局から発行されるのは相続登記を申請した相続人のみです。

そのため、登記の名義はあるけど権利書がないという事態は権利書を紛失していなくても生じ得ます。

まとめ

権利書を紛失すると時間や労力、さらに費用の面からも負担が大きいといえます。

マンションの売却を検討されている方は今一度、権利証の保管場所を確認しましょう。

もっとも、権利書を紛失している場合でも、マンションを売却することは可能です。

気を付けなければいけないのは、権利書を紛失している場合は手続きが必要なため、無用なトラブルが発生しないように早い段階で不動産会社に相談することです。

築古のマンションでやっと買主が見つかったのに権利書紛失の手続きができていないことを理由に決済が中止とならないように早め早めの手続きが必要です。

関連記事:マンション売却の流れ、プロが教える手続きや注意点

マンションの権利書を紛失、売却方法と注意点まとめ

マンションの権利書とは?

マンションや土地など不動産売買で使用されている権利書は2種類あります。

ひとつは昔から使用されている「登記済権利証」と平成17年導入された「登記識別情報通知」です。

この2種類とも有効な権利書としてマンションなど不動産売却をする際には、必要な書類又は情報となります。

詳しくはこちらをご覧ください。

マンションの権利書が見つからない場合どうする?

まずは、マンションの登記事項証明書(登記簿謄本)を最寄りの法務局で取得しましょう。

最新の登記事項証明書(登記簿謄本)で自身が最終の所有者であることが確認できれば一安心です。

マンションの権利書が見つからない場合の詳しくはこちらをご覧ください。

権利書を紛失したマンション、売却できる?

マンションを売却する際に登記識別情報や登記済証といった権利書は原則必要です。不動産名義変更の登記をする際に法務局に提供することになります。

しかし、権利書がないからといって売却ができないわけではありません。詳しくはこちらをご覧ください。

権利書を紛失したマンション売却の注意点は?

注意点は以下4つです。権利書を紛失したマンション売却の注意点の詳しくはこちらをご覧ください。

  • 時間的ゆとりを持つ
  • 権利書を再度確認する
  • 相続不動産の相続登記の際は不要
  • 権利書が発行されてない場合もある
司法書士 岡山 司
(執筆)

司法書士 岡山 司

人生設計や人生の節目をサポートする会員制の「ひだまり倶楽部」を運営。相続・税務・保険・不動産・FPと「暮らしの安心・安全」を提案し解決するアドバイザー。

近年は、お部屋の整理収納や妊婦さん・高齢者・離婚のカウンセリングなど暮らしにおけるカスタマーサービスの充実を図っております。

認知症対策として注目される「民事信託」をはじめ、多数の「相続・遺言」セミナーの講師として活躍中!