マンションの相続税評価額の基本、時価、計算例

カテゴリ:マンション売却
投稿日:2022.09.01

マンションの相続税評価額の基本、時価、計算例

親が所有していたマンションの一部屋を、子が相続により取得した場合に、相続税を計算するときの評価額(「相続税評価額」といいます)をどのように調べて決めたらよいのでしょうか?

今回はマンションの一部屋を相続により取得した場合の「相続税評価額」の計算についてとりあげます。

マンションの相続、相続財産と相続税評価額

相続により取得したマンションは相続財産にはいる?

はいります。

相続開始時(通常は亡くなった日)に、被相続人(亡くなった人)から相続または遺贈により取得した全ての財産が相続税の対象となります。

マンションを相続して取得した後に売却し既に手元にない場合でも相続開始時点では相続財産に含まれていますので、相続税評価額を計算する必要があります。

では被相続人が自宅としていたときと、他人に貸していたときなど、用途に違いがあった場合でも、相続税評価額は同じ部屋なので同じになるのでしょうか?

後にみていきますが、相続開始時にどのように利用していたかによって相続税評価額が異なります。

被相続人(亡くなった人)が所有していた不動産を調べるには?

どのような不動産を所有していたのかが分からない場合

被相続人がどのような不動産を所有していたのかがわからない場合もあります。

それを調べるには、被相続人宛に郵送されてきた固定資産税の納付書についている課税明細書・登記簿謄本・売買契約書・権利証(登記識別情報)・手帳のメモ・近親者の話しなどが参考になります。

マンションを共有している場合

マンションの一部屋を共有(複数の人で一緒に所有すること)している場合には、固定資産税の納付書と課税明細書が代表者のみに送られてきており、それ以外の所有者には送付されていないことがほとんどです。その場合は代表者に内容の確認をしてみましょう。

固定資産税の納付書と課税明細書が見当たらない等の場合

固定資産税の納付書と課税明細書が見当たらない等の場合には、「名寄帳」を市区町村の役所から入手してみましょう。

「名寄帳」とは「固定資産課税台帳」であり、所有者ごとの資産を一覧表にまとめたものです。

「名寄帳」を入手することで、被相続人がその市区町村内で所有していたすべての不動産を把握することができます。

ただし他の市区町村内に所有する不動産まではわかりませんので、少なくとも「どの市や区にマンションを保有していたか」の情報は別の資料で調べる必要があるでしょう。

マンションの「家屋」と「敷地権」は一体化して処分

マンションのように、複数の者と共有している建物を「区分建物」といい、構造上・利用上独立し区分された数個の部分を、個々の者が所有しています。これを「区分所有」といいます。

区分所有者は、家屋のみではなく土地(敷地)に対してそれぞれ権利をもっています。この権利を「敷地利用権」といいます。

「敷地権」とは、敷地利用権のうち登記されたものをいい、「家屋」と一体化されており基本的に分離して処分することはできません。

マンションの「家屋」と「敷地権」は分けて相続税評価

マンションの場合、売却等の処分については「家屋」と「敷地権」を一体化して行うのが基本です。

一方、相続税評価は、被相続人が区分所有していた「家屋」と「敷地権」に分けて評価を行います。評価する「家屋」の範囲は居室の専用部分のみだけでなく、共有部分に対する持分も含まれます。

「家屋(専有部分と共有の持分)」と「敷地権」をそれぞれ評価した後に、合計して当該マンションの相続税評価額を計算します。

マンションの相続税評価の基本(時価)

相続開始時(亡くなった日)の時価で評価

相続税評価額は、相続開始時(亡くなった日)の時価で評価することが基本になります。

この時価とは、簡単にいうと亡くなった日に、財産を現金にした場合にはいくらで評価できるかということです。

被相続人がマンションを買った時の金額や、相続人が相続して取得後に売る時の金額が相続税評価額になるのではありません。

「亡くなった日の時価」といっても難しい

「亡くなった日の時価」といっても納税者にとってはなにが時価なのか判断することは難しく、また税務行政を統一化するためにも、実際は、国税庁の公表している「財産評価基本通達」に従って、「家屋」と「敷地権」の相続税評価を行うのが基本です。

「財産評価基本通達」では財産の種類別に評価方法を定めています。

参考記事:財産評価│国税庁

マンションの相続税評価を行う時点

相続開始時(通常は被相続人が亡くなった日)で評価

「相続開始時(通常は被相続人が亡くなった日)」で評価します。

被相続人が過去に自宅としていた部屋を、亡くなった日には他人に貸していたなど、利用状況が変化することもあると思います。

その場合は、過去ではなく「相続開始時における現況が実際にどうだったのか」に基づいて相続税評価を行います。

マンションの家屋の相続税評価

マンションの「家屋」の相続税評価

それではまずマンションの「家屋」について相続税評価をどのように行うのかを確認しましょう。

家屋については、マンション全体の建物のうち、被相続人(亡くなった人)が所有していた区分所有部分(専有部分(居室)と共有部分の持分)について評価します。

今回は(1)自用家屋として利用していた場合と(2)マンションの一部屋を貸していた場合(貸家)の相続税評価についてとりあげます。

(1)自用家屋として利用していた場合

「自用家屋」とは自宅や別荘のように所有者が自由に利用できる家屋をいいます。

自用家屋については、被相続人が死亡した年の「固定資産税評価額」が相続税評価額になります。

自用家屋の相続税評価額=固定資産税評価額×1.0

「固定資産税評価額」は「固定資産税の課税明細書」に記載されています。

この明細書は市区町村から固定資産税の納付書と共に毎年、送られてきます。

見当たらない場合には「固定資産税評価証明書」又は「名寄帳」を市町村長等から交付してもらうことにより把握できます。

(2)マンションの一部屋を貸していた場合

相続開始時点で被相続人が他人に貸していた場合は「貸家(かしや)」として相続税評価をします。

「貸家」は「自用建物」と異なり、借家人(家屋を借りている人)に借家権(しゃっかけん)があるため所有者が自由に利用できません。したがって同じ部屋であっても「自用建物」に比べて「貸家」の相続税評価は借家権がある分、低くなります。

「貸家」については被相続人が死亡した年の固定資産税評価額から借家権分控除して計算します。

貸家の相続税評価額=固定資産税評価額×(1-借家権割合30%)×賃貸割合
貸家
借家権の目的となっている他人に貸している家屋

借家権
借地借家法の適用を受ける借家人の有する家屋に対する賃借権
借家権割合は基本的には全国一律で30%です。
都道府県ごとに国税庁がホームページ等で公表しています。

賃貸割合
その家屋のうち相続開始時点において実際に有償で貸家としている部分の割合
(貸家としている家屋の床面積の合計/被相続人が所有している家屋の床面積)
マンション1室を所有していてそれを賃貸している場合は、100%になります。
マンション10部屋(全て同じ床面積)を所有しており、8部屋を貸家としている場合は80%になります。

マンションの敷地権の相続税評価

次に、マンションの「敷地権」の相続税評価について(1)自用地として利用していた場合と(2)マンションの一部屋を貸していた場合(貸家建付地)についてとりあげます(以下では「敷地権の種類」が「所有権」である場合を前提とします)。

(1) 自用地として利用していた場合 

所有者が自由に利用できる土地(敷地権等含む)を「自用地」といいます。

被相続人が所有するマンションが自宅や別宅等の「自用家屋」として利用されていた場合には、その家屋についての敷地権は「自用地」として、次の2つのステップを経て評価をします。

  1. マンションの敷地全体を評価する
  2. 1の評価額に被相続人が区分所有していた「敷地権の割合」を乗じる

1.マンションの敷地全体を評価する

まずマンションの建つ敷地全体を「路線価方式」または「倍率方式」で評価します。

「路線価」とは国税局長により決められた道路(路線)に面する標準的な宅地の1㎡当たりの価額です。この「路線価」を使用して土地(敷地)の評価をする方法を「路線価方式」といいます。

市街地にあるマンションの敷地については、基本的には「路線価方式」で評価します。

一方、国内には路線価が定められていない土地(敷地)もあります。その場合には「倍率方式」を使用します。

「倍率方式」とは、固定資産税評価額に評価倍率表の倍率を乗じて土地(敷地)を評価する方法です。

敷地全体を評価する方法:「路線価方式」または「倍率方式」

「路線価」が定められている場合 →「路線価方式」で評価する
「路線価」が定められていない場合→「倍率方式」で評価する

「路線価方式」と「倍率方式」のおおまかな評価手順は次のとおりです。

【路線価方式の評価手順】

1.敷地全体の相続時の現況面積(地積)を何㎡か登記簿謄本等で把握します。

2.国税庁の「財産評価基準書」から、対象地の路線価を調べます。

3.敷地全体の現況面積(㎡)・路線価・奥行・間口等の土地の形状・接道状況・利便性を考慮した様々な補正率(画地調整率)を個々に斟酌して相続税評価額を計算します。

【倍率方式の評価手順】

1.敷地全体の固定資産税評価額を調べます。

2.国税庁の「財産評価基準書」から、対象地の評価倍率を調べます。

3.固定資産税評価額に評価倍率を乗じて相続税評価額を計算します。

なお「路線価方式」で使用する画地調整率は、倍率方式によって評価する場合には適用されません。

2.1で計算した敷地全体の評価額に「敷地権の割合」を乗じる

1で計算したマンションの敷地全体の評価額に、被相続人が区分所有していた「敷地権の割合」を乗じてマンションの敷地権の相続税評価額を計算します。「敷地権の割合」は登記簿謄本に記載されています。

敷地権(自用地)の相続税評価額=敷地全体の評価額×敷地権の割合

(2)マンションの一部屋を貸していた場合

貸家建付地

被相続人が所有するマンションの一部屋を貸していた場合、その敷地権部分については貸家建付地(かしやたてつけち)として評価します。

貸家建付地の相続税評価額の計算

借家人の権利が付与されており、所有者が自由に利用できないため(1)で計算した敷地権(自用地)の相続税評価額から「借家人の権利分」を控除して計算します。

借家人の権利分は「敷地権(自用地)の相続税評価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合」で示されます。

自用地として利用している場合よりも、貸マンションとしていた場合は、敷地権の相続税評価額は低くなりますが、相続開始時点で貸していない場合は、敷地権は自用地として評価しなければならないので注意しましょう。

貸家建付地の相続税評価額=敷地権(自用地)の相続税評価額-(敷地権(自用地)の相続税評価額×借地権割合×借家権割合30%×賃貸割合)

貸家建付地
貸家の目的に供されている土地(敷地権含む)

貸家
借家権の目的となっている家屋

借家権
借地借家法の適用を受ける借家人の有する家屋に対する賃借権
借家権割合は基本的には全国一律で30%です。
国税庁がホームページ等で公表しています。

借地権
建物の所有を目的とする地上権又は土地(敷地)の賃借権

借地権割合
更地の時価に対する借地権価格の割合
路線価図により30~90%で定められています。
参考記事:財産評価基準書」

賃貸割合
マンションの一部屋を貸している場合は100%になります。

相続したマンションの家屋と敷地権の相続税評価まとめ

以上より、相続により取得したマンションは、「家屋」と「敷地権」に分けて、相続開始時の利用状況を踏まえて評価した後、両者を合計して当該マンションの相続税評価額を計算することがわかりました。

評価の過程において、難易度が高いのは、マンションの敷地全体の評価だと思います。

評価額の違いは相続税額に影響します。疑問点がある場合は税務署に問い合わせをしたり、専門家である税理士に相談しましょう。

マンションの敷地権にも小規模宅地等の特例を適用できる

小規模宅地等の特例適用で減税

相続税評価額を大きく減額できる税法上の特例として、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(租税特別措置法第69条の4)というものがあります。以下では「小規模宅地等の特例」といいます。

相続により取得したマンションの小規模宅地等の特例適用要件

マンションを相続により取得した場合の敷地権についても、一定の要件を満たせば一定の面積までは、「小規模宅地等の特例」を適用することができます。

例えば次のような場合です。

被相続人が居住用(自宅)として利用していたマンションの敷地権

面積330㎡まで、自用地としての評価額から80%減額できる

被相続人が他人に貸し付けていたマンションの敷地権 

面積200㎡まで、貸家建付地の評価額から50%減額できる

なお、貸付用宅地と自宅がある場合、限度面積の調整計算をする必要があります。

小規模宅地等の特例」の詳細はこちらをご覧ください。

参考記事:相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)│国税庁

「小規模宅地等の特例」の適用についての注意点

・マンションの「家屋(専有部分{居室}と共有部分の持分)」については適用がありません。

・適用される財産は、個人相続又は遺贈により取得した土地等(敷地権含む)に限られています。相続開始前3年以内の贈与、相続時精算税により取得した土地等(敷地権含む)には適用できません。

・当該土地(敷地権)について遺産分割が決まっており、相続の申告書を期限内に提出することが必要になります。

・「配偶者居住権」に基づく「敷地利用権」についても小規模宅地等の特例の適用対象となります。

※「配偶者居住権」とは、被相続人が亡くなった後も配偶者が「自宅家屋に住む権利」です。またその家屋の建つ敷地を利用する権利を「敷地利用権」といいます。

なお「配偶者居住権」の詳細はこちらをご覧ください。

参考記事:「配偶者居住権等の評価に関する質疑応答事例」

小規模宅地等の特例は、一定の要件を満たせばマンションの敷地権の相続税評価額を80%減あるいは50%減できるため、是非利用したいところです。しかし複雑な規定ですのでわかりづらい場合には税務署や税理士に相談しましょう。

マンションの相続税評価額の計算例

相続税評価額の計算例

マンションの1部屋について、被相続人が亡くなった時点で被相続人の①自宅であった場合と②貸していた場合の相続税評価額の計算例をみてみましょう。

なお、計算を簡単にするため敷地の一方だけが路線に接しているケースを想定し画地調整率による調整などは省きます。

①被相続人の自宅であった場合の相続税評価額

自宅マンションは次のような内容でした。

②被相続人が貸していた場合の相続税評価額

貸マンションは次のような内容でした。

このように、被相続人がマンションを自宅として使用していたのか、賃貸していたのかによって同じマンションでも相続税評価額が違ってきます。

さらに「小規模宅地等の特例」が適用できれば、相続税評価額を大幅に減額できるため相続税を減額する効果も大きくなります。

※本内容は令和2年10月31日現在の税制等に基づいて一般的な税法の取扱いを記載しております。税法は改正されることが多く、本内容と異なる取扱いがなされる場合があります。判断が難しい場合やご不明点がある場合等は税務署や税理士に相談することをお勧めします。

関連記事:相続するマンションを売却、相続税、手続き、売却時の税金

(執筆)税理士 永竿 敬子
税理士 永竿 敬子
【東京税理士会麻布支部 会員番号106656】

地方公務員→公認会計士事務所を経て2006年税理士登録、2011年税理士事務所を神田錦町にて開業。南青山に移転し現在に至る。
税務署での法人決算説明会講師、区役所・東京商工会議所・東京税理士会納税者支援センター、JETRO等で税務相談員、租税教室などを担当。
東京簡易裁判所所属・民事調停委員。筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業法学専攻修了

 税制は毎年改正されますので、納税者にとって有利な特例等を適用するための要件も毎年変わることが多々あります。
 マンションの売買は人生の中でも大きなご決断になる場合も多いかと存じます。
 お早目の査定と共にその年の税制の取扱いをチェックしていただき、資金計画等に役立てていただければと思います。