相続放棄は期限に注意!手続きの流れを解説
カテゴリ:マンション売却
投稿日:2022.10.20
借金だけを残して亡くなられた方(被相続人)の相続人は、通常、相続放棄したいと思うはずです。
その場合、どのように手続きを進めればよいのか?司法書士や弁護士などの専門家に依頼すべきなのか?分からないことばかりだと思います。
もっとも、相続放棄は、管轄の家庭裁判所に必要書類とともに申請書を提出し、2度から3度くらい、家庭裁判所と郵送でやり取りをすることで手続きは終了します。
そのため、自分で申請することも十分可能です。
しかし、リスクも多分に含んでいます。
そこで、今回は、相続放棄の手続きの流れや期限の制限、その他注意するべきことについて詳しく解説いたします。
目次
相続放棄するにはどのような手続きが必要?
相続放棄とは、相続人に一度は不確定的とはいえ帰属した相続人たる地位の効力を確定的に消滅させる家庭裁判所に対する意思表示です(938条)。
相続放棄をした相続人は、その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。
つまり、相続人ではなくなるので、被相続人のプラス財産とマイナス財産の一切を相続人として受け取れないことになります。
このように相続人たる地位を手放すべく相続放棄をするには、被相続人が亡くなったことと相続放棄をする者が被相続人の相続人であることを証するための戸籍を申請書とともに、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ提出する手続が必要となります。
かかる手続きには3か月という期間制限があるため注意しましょう!
相続放棄には期限がある
相続放棄の手続きは、被相続人の死亡という事実とそれにより自身が具体的に相続人となったことを知った時から3か月以内にしなければなりません。
そのため、相続が発生した時から3か月以内ではないのですが、知った時という事実は客観的に明らかにすることは困難な時もあるため、安心安全に相続放棄をするためには、相続発生した時から3か月以内に相続放棄の申述を家庭裁判所にするべきです。
葬式や四十九日法要を過ぎると残り半分の期間しかありません。3か月という期間は、意外と短いため早めに相続放棄の手続きに取り掛かりましょう!
相続放棄ができる期限が過ぎてしまうとどうなる?
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知ってから3か月以内に、相続について、単純承認・限定承認、又は相続放棄をしなければなりません(民法915条)。
3か月以内に相続放棄又は限定承認の手続きをしな場合は、単純承認をしたものとみなされます(民法921条2号)。相続人たる地位が確定します。
そのため、相続放棄をするにあたり3か月という期限を過ぎてしまうと、原則、被相続人の借金その他債務も含め一切の権利義務を包括的に相続することになります。
なお、何もしないで、3か月という期間制限が過ぎてしまったとしても、必ずしも相続放棄ができないというわけではありません。
3か月以内に相続放棄の申述ができなかったことについて、相当の理由がないと明らかに判断できる場合でなければ、3か月経過後でも、事情により申述を家庭裁判所が却下しないことはあり得ます。
そのため、必ずしも諦める必要はないといえます。
相続放棄は期限延長の申請が可能
相続放棄を検討している相続人は、3か月という熟慮期間内に被相続人の相続財産の状況を調査したものの、いまだ特定できないことにより、相続放棄をすべきかの選択ができないことを理由として、家庭裁判所へ相続放棄の期間伸長の申立てをすることができます。
期間の伸長は比較的容易に、1~3か月程度は認められます。
そのため、3か月を過ぎても、裁判所が期間延長を認めれば、相続放棄はなお可能です。
相続放棄を検討すべきケース
一般的に相続放棄を検討するケースは3つ考えられます。
被相続人に莫大な借金がある場合、被相続人が連帯保証人になっている場合、そして被相続人の相続に関わりあいたくない場合です。
被相続人に莫大な借金がある
被相続人に、プラスの相続財産で返済できない莫大な借金がある場合には、相続人は、借金を法定相続割合で承継することになります。
そのため、相続放棄をすることにより、借金を引き継がなくて済むというメリットがあり、検討すべきケースといえます。
被相続人が連帯保証人になっている
同様に、被相続人が連帯保証人になっていた場合も、相続人は法定相続割合で連帯保証人たる地位を引き継ぐことになります。
債務者が返済困難な場合には、債務を負担することになります。
そのため、相続放棄をすることにより、連帯保証人たる地位を引き継がなくて済むというメリットがあり、検討すべきケースといえます。
連帯保証人になっているかどうかの調査が難しい場合もあることも留意すべきです。
なお、被相続人のプラスの財産の範囲内で借金や債務を負担して相続する「限定承認」という法制度があります。
どうしても残したい相続財産がある場合や連帯保証人になっているかよく分からない場合に、相続放棄と合わせて検討することがあります。
他の相続人と関わりあいたくない
さらに、他の相続人と関わりあいたくない場合や相続人間の紛争に巻き込まれたくない場合、若しくは単純に被相続人と疎遠のため相続を遠慮する場合も、相続放棄を検討するケースといえます。
ケースによっては、相続放棄手続きを家庭裁判所でわざわざせずに、遺産分割協議書で自分以外の相続人が相続財産を相続することに合意をする旨の署名・捺印をすることで解決できる場合もあります。
ただ、遺産分割協議による場合には、プラス財産は相続しなくても借金やその他負債を相続することになるため注意が必要となります。
相続放棄をするには
相続放棄をするには、家庭裁判所への申述が必要となります。
かかる申述は、自分でももちろんできます。
しかし、事情によっては、司法書士や弁護士に依頼をした方が良い場合もあります。
自分で手続きをする
被相続人が配偶者や親である場合は、家庭裁判所へ添付する書類も収集しやすく、時間的にも余裕があることが多いです。
相続財産に一切手を付けていない場合には、家庭裁判所に確認をし、指示とおりに準備し申述をすれば相続放棄は認められます。
専門家に依頼をする必要性は高くはないかもしれません。
司法書士に相談する
仕事や家庭の事情で忙しくて手続きができない、自分で手続きをするのは不安、相続の発生から3か月が経過、相続財産を消費したというような場合であれば、司法書士への依頼を検討してもよいかもしれません。
限られた期間内で、相続放棄の期間の伸長も含め、適切に書類を収集・作成し手続きを進めてくれます。
弁護士に相談する
被相続人の借金や負債について紛争になっているような場合や、とりわけ被相続人の債権者が個人やヤミ金など出資法に抵触する金融業者であるような場合は、貸金業者等とは異なり、相続放棄をしたことを告げたところで取り立てが止まないことも想定されます。一般的には、司法書士でなく弁護士に速やかに相談するべきといえます。
弁護士に間に入ってもらい、債権者と交渉してもらいながら、相続放棄手続きを検討すべきです。
相続放棄の手続きをする前に「単純承認事由」を確認
相続人が次に該当した場合は、当該被相続人の相続につき、承認したものとみなされます(民法921条)。
そうすると、もはや相続放棄はできず、相続財産を包括的に承継することになります。
- 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき
- 相続人が3か月という相続放棄の熟慮期間内に、相続放棄をしなかったとき
- 相続人が、相続放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、ほしいままに消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき
相続財産の処分
相続財産を売却・贈与・家屋の解体・高価な美術品の損壊・隠匿などが処分に該当します。
また、被相続人の思い出の品を親族間で形見分けすることは、一般的に経済価値がないようなものであれば、形見分けをしても処分に該当しないと考えられています。
さらに、 相続財産のなかから葬儀費用、仏壇、墓石の費用を支出することもありますが、社会通念上、不相当なものでなければ、処分には該当しないと考えることもできます。
では、相続人が相続財産の現金で相続債務を弁済することは、相続財産の処分に該当するのでしょうか?
この点、相続人は、相続放棄をするまでの間は、自己の財産と同一の注意義務をもって、相続財産を管理しなければなりません(民法918条1項)。
したがって、相続財産を管理・保存する権利義務があるため、弁済行為は保存行為として処分に含まれないと考えられます。
もっとも、債務の弁済は処分に該当すると考えることもでき、すべての債務者に返済しない場合はトラブルを招くことも予想されますので、相続放棄をするまでは相続財産からの弁済は控えるべきといえます。
3か月経過
何もせずに3か月という相続放棄の熟慮期間を経過してしまうと、単純承認とみなされます。
相当な理由があれば例外はあるかもしれませんが、相続放棄の手続きを検討するのであれば、期間の伸長も考慮に入れ、3か月の期間に注意をしましょう!
相続放棄後の相続財産の隠匿
これまで紹介した「処分」や「期間の経過」は、単純承認の黙示の意思表示といえますが、相続人が、相続放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、ほしいままに消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったことにより相続放棄を認めないことは、相続人に対するある種の制裁といえます。
相続放棄をすることによって借金など相続債務を免れる一方で、プラス財産を自分のほしいままにすることは、相続放棄の手続きをした後であっても許さないということです。
もっとも、隠匿行為をした相続人が相続放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、単純承認をしたものとみなされることはありません。
流れで解説!相続放棄の手続き
相続放棄手続きの流れは、図のとおりです。
相続発生から3か月以内に、③の家庭裁判所への相続放棄の申述をしましょう。
3か月以内にできない場合は、期間伸長の申立てをすることになります。
相続放棄するための費用の用意
管轄の家庭裁判所への相続放棄の申述には、手数料を収入印紙で納付します。
また、裁判所の郵送処理のための予納郵券(郵便切手)の準備が必要です。
■収入印紙 800円
■郵便切手 84円×5、10円×5
※申述する管轄の家庭裁判所により異なりますので確認が必要です
手続きの代行を依頼する場合は手数料
戸籍の収集に自信がない、期限が迫っている、安心安全に相続放棄をしたい場合には、専門家に依頼することが得策といえます。
相続放棄の必要書類を用意
相続放棄をするどの相続人でも共通の必要書類としては、被相続人が亡くなったか事を確認できる戸籍謄本と被相続人の最後の住所を確認できる住民票の除票又は戸籍の附票の2点です。
さらに、被相続人との関係で用意する書類が異なります。
相続放棄の申述をする者が、被相続人の相続人であることを証明する書類を添付することになります。
申立人が被相続人の配偶者や子どもである時
共通書類に加え、被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本を必要書類として用意する必要があります。通常、被相続人と配偶者は、同じ戸籍に載っています。
その場合は、配偶者自身の戸籍を取得で大丈夫です。同じ書類を複数準備する必要はありません。
申立人が被相続人の孫や直系卑属である時
共通書類に加えて、被相続人の死亡記載のある戸籍(除籍・原戸籍)謄本と被代襲者(本来の相続人である孫の親)の死亡記載のある戸籍(除籍・原戸籍)謄本を用意する必要があります。
本来相続人となる被相続人の子どもが既に死亡しており代襲相続により孫やひ孫が相続人であることを証明します。
申立人が被相続人の親や祖父母である時
申述人が被相続人の親や祖父母である時は、第1順位の子どもが既に死亡、又は全員が相続放棄して、第1順位の法定相続人がいない場合です。
この場合、相続放棄を申請する者は、第2順位の法定相続人として、共通書類に加えて、被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍・原戸籍)謄本と被相続人に子供(孫)がいたが被相続人より先に死亡していた場合は子供(孫)の出生から死亡までの全ての戸籍(除籍・原戸籍)謄本、さらに相続人が祖父母の場合は被相続人の親(祖父母の子供)の死亡記載のある戸籍(除籍・原戸籍)謄本を用意する必要があります。
第1順位の相続人(被相続人の子や孫といった直系卑属)がいないことを証明します。
また、被相続人の両親が亡くなっているときは、その両親が既に死亡していることを証明します。
申立人が被相続人の兄弟姉妹や甥姪である時
申述人が被相続人の兄弟姉妹や甥姪である時は、被相続人の子どもや孫などの直系卑属や両親や祖父母などの直系尊属が既に死亡又は全員が相続放棄をして、第1順位と第2順位の法定相続人がいない場合です。
この場合、相続放棄を申請する者は、第1順位・第2順位の法定相続人として、共通書類に加えて、被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍・原戸籍)謄本、被相続人に子供(孫)がいたが被相続人より先に死亡していた場合は子供(孫)の出生から死亡までの全ての戸籍(除籍・原戸籍)謄本、被相続人の直系尊属の死亡記載のある戸籍(除籍・原戸籍)謄本、相続人が「おい・めい」の場合は被相続人の兄弟姉妹(おい・めいの親)の死亡記載のある戸籍(除籍・原戸籍)謄本を用意する必要があります。
第1順位と第2順位の相続人(被相続人の子や孫といった直系卑属、両親や祖父母といった直系尊属)がいないことを証明します。 また、被相続人の兄弟姉妹が亡くなっているときは、その兄弟姉妹が既に死亡していることを証明します。
家庭裁判所へ相続放棄を申し立て
相続放棄の申述書は、手数料・戸籍等を添付して被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。
管轄の家庭裁判所へ赴いて書類を提出するか、又は郵送で送付することも可能です。
記入すべき事項はそれほど多くありませんが、ポイントとなる「申述の理由」欄を記載し、必要に応じて説明資料を添えて、事情を説明する書類を作成し添付することもあります。
相続放棄申立て後、照会書が届く
管轄家庭裁判所へ相続放棄を申述すると、7日~10日程度で相続放棄に関する照会書が管轄の家庭裁判所より送付されてきます。
照会事項は次のようなものです。
照会書への回答はそんなに難しいものではありませんので必要事項を記載して返送することになります。
相続放棄申述受理通知が届き、完了
照会書を家庭裁判所へ郵送すると何事も問題がなければ10日程度で相続放棄の申述が受理されます。
相続放棄が受理されると「相続放棄申述受理通知書」が家庭裁判所から郵送されてきます。
相続放棄申述受理通知書は、家庭裁判所が相続放棄を受理したことを通知する書類です。
この通知書により、相続放棄の手続きは完了したとわかります。
この点、「相続放棄申述受理通知書」は、相続放棄の申述を確かに受理し手続きが完了したことの通知書面にすぎません。
「相続放棄申述受理通知書」で大概の相続手続きはできますが、場合により相続放棄をしたことの証明書を求められることがあるため、その際は、家庭裁判所に「相続放棄申述受理証明書」の発行請求をすることができます。
まとめ
亡くなられた方(被相続人)が所有する財産は、プラス財産だけではありません。
莫大な借金を背負っていたり、会社や第三者の連帯保証人になっていることもあります。
そのような際の相続手続きでの選択肢の一つが、相続放棄です。
相続放棄をすると被相続人の一切の財産を承継できなくなるため、事業をされていたり、どうしても引き継ぎたい財産があるようなときは、重大な決断となります。
ただし、相続放棄の申述は、3か月という熟慮期間内に行わなければなりません。
相続放棄の手続は本人でも十分行えると思いますが、限られた時間、法定単純承認、債権者からの相続人への返済請求などのリスクを考えると、司法書士や弁護士など専門家に依頼することも検討すべきといえます。