相続割合の計算方法。誰がどれだけ相続するのか?
カテゴリ:マンション売却
投稿日:2022.07.11
人生100年時代、親族の相続が発生した場合、自分は相続人なのか?胎児は相続人なの?事実婚は?と疑問に思うケースもあるかと思います。
また、相続人であるとしたら、遺産分割をするうえで、相続割合はどの程度なのか、どのように相続割合を計算するのか、相続割合に拘束されることなく自由に分割してよいものなのか?相続割合において相続人が配偶者なしで子どものみ、兄弟のみの場合はどうなるのか?を知りたいところです。
ここでは、誰が相続人となるのか、そして、相続の割合の決め方から、法定相続分の計算方法、特殊なパターンでの分割シミュレーションまで網羅的に解説します。
目次
遺産分割、相続する割合は何で決まるか?
亡くなられた方(被相続人)の遺産をどのように分割すればよいのかということですが、基本的には、遺言書があれば遺言書に従うことになります。
しかし、すべての被相続人が遺言書を作成しているわけではないため、そのような場合には、相続人間で遺産分割協議をし、相続人みんなが納得の上で遺産分割をすることになります。
遺言
遺言とは、法律の形式に従って示された遺言書の作成者(遺言者)の最終の意思を死後に実現することができる法制度です。
これにより、被相続人が遺言を作成している場合には、遺言の内容に従い相続人や相続人以外の第三者に相続財産を引き継がせることができます。
もっとも、遺言書の内容によっては、遺産分割協議が必要な場合もあります。
例えば、
・遺産分割方法の指定(民法908条)
「長男XにはマンションAを相続させる。」旨の遺産分割方法の指定をする遺言があると、何らの行為を要せずに、遺言者の死亡時に直ちにマンションAが長男Xに相続されることになります。
・相続分の指定(民法902条1項)
「長男Xと次男Yにはそれぞれ相続財産の2分の1を相続させる。」旨の相続分の指定をする遺言があると、遺言者の死後、相続財産を取得する割合は2分の1と分かりますが、具体的にどの財産をどの相続人が相続するかは、長男Xと次男Yによる遺産分割協議を行わないと決まらないことになります。
・包括遺贈(民法964条)
「第三者Zには、相続財産の3分の1を遺贈する。」旨の相続財産の全部又は一部を一定の割合で示して譲り渡し(包括遺贈)がなされると、遺言者の死後は相続財産を3分の1の割合で相続財産を遺言者の相続人と共有していることになりますが、具体的にどの財産を第三者Z(受遺者)が引き継ぐかは、遺言者の相続人と第三者Z(受遺者)による遺産分割協議を行わないと決まらないことになります。
・特定遺贈(民法964条)
「第三者Zには、マンションAを遺贈する。」旨の相続財産中の特定の財産を譲り渡し(特定遺贈)がなされると、遺言者の死亡によりマンションAの所有権は第三者Z(受遺者)に移り、マンションAは遺産分割の対象からは外れます。
遺産分割協議
遺言がない場合や遺言がある場合でも相続分の指定・包括遺贈がなされた場合には、相続財産につき、誰が何をどのように引き継ぐかの遺産分割協議が必要となります。
このような場合には相続財産は暫定的に、相続人間若しくは相続人と受遺者間で共有状態になっているため、遺産分割協議により共有状態を解消する必要があるからです(民法898条、907条、990条)。
遺産分割協議においては、相続分の指定や包括遺贈の割合には拘束されますが、原則、相続人全員が納得できるのであればどのように分割しようが自由です。
例えば、「実家は亡き父と同居していた長男が相続し、その他現預金等金融資産は、長男と次男で2分の1の割合で相続する」旨の協議内容でも構いません。
法定相続分
前述のとおり、遺言がないような場合には、相続人間の協議により遺産を分割することになります。
しかし、相続人間の利害が対立し遺産分割協議がまとまらないこともあります。
そのような場合には、遺産分割調停や審判となり、家庭裁判所を介在させざるを得ません。
調停や審判の場では、客観的な基準が必要となります。
遺産分割の割合を決める客観的基準となるのが法定相続分です。
法定相続分は文字とおり、法律をもって相続人が複数人いる場合の相続分を規定(民法900条)しているため、遺言や遺産分割協議による遺産の分割をする際にも、相続人間の公平な相続を実現する一助となるといえます。
例えば、遺産分割協議の際に、相続人の一人がどうしても法定相続分は欲しいと言って譲らない場合には、特別受益や寄与分といった細かなことを検討することも必要となりますが、それに従って分割協議を進めざるを得ません。
相続で重要なのは「相続権」
「相続権」という言葉は聞きなれませんが、文字を分解すると「相続する権利」と分かります。
では、相続する権利があるということはどういうことなのでしょうか?
相続権を有する人物が「法定相続人」となる
「相続権」とは被相続人のプラス財産からマイナス財産まで含むすべての財産的地位を包括的に「相続する権利」です。
この相続する権利がある者が「法定相続人」であり、法定相続人それぞれが相続できる割合が「法定相続分」です。
「法定相続人」や「法定相続分」については、法律で定められています(民法887条から890条、900条、901条)。
遺言書がない場合は、暫定的に法定相続人が法定相続分に従って相続財産を共有する形で相続することになります。
そのため、相続の場面では、「相続権」に関する知識はとても重要となります。
誰もが経験するのが相続です。 ここからは、詳しく「法定相続人」と「法定相続分」について見ていきましょう!
法定相続人の順位とは
遺言書がない場合には、被相続人の遺産を相続権のある相続人間で分割することになります。
相続権ある相続人は、被相続人との関係を考慮して、法律により第1順位から第3順位まで法定相続人として優先順位が付されています(民法886条)。
ここでは、皆さんが法定相続人となり得るのかを表により分かりやすくご紹介します。
被相続人の法定相続人の範囲について、まず、配偶者は、必ず相続人となります。
そのため、優先順位者は、配偶者がいる限りは、配偶者と共同で法定相続人になります。
配偶者がいない場合には、優先順位者のみが法定相続人となります。
また、優先順位者すべてがいない場合には、配偶者のみが法定相続人となります。
優先順位者については、上の順位の者が一人でもいる限り、下の順位の者は法定相続人となることはできません。
順位ごとの相続割合の計算方法
配偶者の相続割合
被相続人の配偶者は常に法定相続人となります(民法890条)。
婚姻期間が1日でも、法律婚である限り問題はありません。
他方、事実婚や内縁関係の場合は、被相続人との関係で相続権はありません。
婚姻届けを役所に提出しているかがポイントとなります。 ケース別の配偶者ご本人の法定相続分は次のとおりです。
第1順位・子や孫の相続割合
被相続人の子は、第1順位の法定相続人です(民法887条1項)。
第一順位の子には、被相続人が養子縁組をした養子や認知した子、さらに胎児も含みます。
ただし、胎児については、被相続人が亡くなった相続発生時に既に生まれたものとみなされているだけなので、胎児は生きて生まれなければ相続権を失い相続人とはなり得ません(民法886条)。
また、被相続人に子も孫もいるような場合は、子が相続権を失わない限り、その孫が相続人になることはありません。
この点、3人の子がいるような場合で、被相続人の相続発生時に、うち1人が既に亡くなっていたような場合には、死亡した子の子、つまり被相続人から見ての孫が亡くなっていた子の相続人たる地位をそのまま引き継ぎ相続人(代襲相続人)となります。
孫は、亡き子(孫かみて父)の地位を引き継ぐため、その孫が複数の場合は、その地位を頭数で均等割し、他の子である相続人と共同で相続します。
ケース別の第一順位者ご本人の法定相続分は次のとおりです。
第2順位・父母や祖父母の相続割合
被相続人の第二順位の法定相続人は父母や祖父母です(民法889条)。
第一順位にあたる子や孫・ひ孫等、直系卑属がいない場合に、父母等の直系尊属が法定相続人となります。
父母又は父若しくは母がご健在であればそのものが相続人となります。
被相続人の相続発生時に既に父母の両名が亡くなっている場合は、被相続人の祖父母、又は祖父若しくは祖母がご健在であれば相続人となります。
なお、被相続人が養子の場合は、実親と養親ともに法定相続人となります。
ケース別の第二順位者ご本人の法定相続分は次のとおりです。
第3順位・兄弟姉妹の相続割合
被相続人の第三順位の法定相続人は兄弟姉妹です(民法889条)。
第一順位や第二順位にあたる直系卑属や直系尊属が誰一人いない場合に、兄弟姉妹が法定相続人となります。
兄弟姉妹が複数の場合は、法定相続分の頭割りとなります。
なお、被相続人の相続発生時に、兄弟姉妹のうち既に死亡している者がいる場合は、兄弟姉妹の子、つまり、被相続人にとってのその甥姪が亡き兄弟姉妹の相続人たる地位を引き継ぎ相続人(代襲相続人)となります。
この点、被相続人との客観的な関係性希薄で笑う相続人となるのを避けるため、仮に甥姪が既に他界していていても、甥姪の子は相続人となることはできません。
一部の法定相続人は「遺留分」を請求できる
被相続人が、遺言を残していなければ、遺産分割協議により各相続人が合意の下、相続財産を分割して承継することになります。
そのため、遺留分が問題となることは基本的にはないといえます。
しかし、遺言がある場合、遺言書に「遺言者は、遺言者の有する全財産を長男に相続させる。」旨の記載があると、遺言者の相続発生時には、他の相続人は一切の相続財産を相続できないことになります。
これでは、相続人間の財産の公平な分配や生活の安定が害される危険があります。
そこで、法は、遺言者の財産の自由な処分や取引の安全と他の相続人の利益を調整するために、特定の相続人の最低限の取り分を保障し相続人を保護するための遺留分制度を設けています(民法1042条から1049条)。
遺留分の対象者と相続の割合
どのような相続人が遺留分制度により最低限の取り分が認められているのでしょうか?
法は、兄弟姉妹以外の相続人(配偶者・直系卑属・直系尊属)を遺留分権利者と定めています(民法1042条)。
兄弟姉妹と被相続人との関係は、子や孫、両親と比べると、相続財産を承継でいなくても生活的基盤への影響は小さいと言えるからと考えられます。
では、遺留分権利者は、遺留分をどの程度保障されているのでしょうか?
この点、遺留分権利者全体に遺されるべき遺産全体額の割合は、直系尊属のみが相続人である場合は、3分の1ですが、それ以外の場合は、2分の1です。
これに各相続人の相続分を乗じたものが、各相続人が保障される遺留分割合となります。
例えば、父が亡くなり配偶者と長女・長男が相続人の場合の遺留分の割合を計算してみましょう!
配偶者と子が相続人のため、配偶者及び子2人の遺産全体の遺留分割合は1/2です。
この1/2に各相続人の相続割合を乗じます。
母 :1/2×2/4=2/8
長女:1/2×1/4=1/8
長男:1/2×1/4=1/8
相続権を持たない人物とは
ここまでは、法定相続人や法定相続割合について確認してきましたが、相続権があるか迷うようなケースもあるかと思います。
そこで、ここでは、相続権を持たない人物に注目をしてみようと思います。
離婚した元配偶者
離婚をしている元配偶者は、法定相続人となれるのでしょうか?
法律上の婚姻をしている配偶者は常に法定相続人となりますが、法律上の婚姻をしていない、離婚した元配偶者は法定相続人となることはできません。
他方、何年もの間、別居状態で事実上の離婚状態であった配偶者の場合には、法律上の婚姻関係があるため法定相続人となることができます。
内縁の妻・夫
内縁の妻や夫は、法定相続人となれるのでしょうか?
法律上の婚姻をしている配偶者は、常に法定相続人となりますが、法律上の婚姻をしていない、事実婚や内縁関係の場合は、法定相続人となることはできません。
事実婚や内縁関係の配偶者に遺産を残すためには、遺言書の作成又は家族信託(民事信託)契約が必要となります。
再婚相手の連れ子
再婚相手の連れ子(再婚相手とその元配偶者との間の子)は、法定相続人となれるのでしょうか?
ここまで見てきたとおり相続権があるのは、被相続人の配偶者と血族です。
再婚した配偶者は、法律上の婚姻関係があるため相続人となりますが、再婚した配偶者の連れ子は、被相続人と血縁関係がないため相続人にはなれません。
そこで、再婚するだけでは被相続人と連れ子と間で、法的な親子関係は成立しないので、連れ後にも相続権を付与するためには、「養子縁組」をする必要があります。
養子縁組とは、もともと親子関係にない者との間で、法律上の血族関係を成立させる手続きです(民法809条)。
それゆえ、養子縁組により相続手続きにおいて、養子は実子と同様に扱われ、養子も相続権が得ることができます。
法律違反の行為をした人物
民法で定める相続欠格事由に該当する者は、相続権を剥奪され、相続人となることに加えて受遺者になることもできません(民法891条)。
この効果は、被相続人の意思とは関係なく、相続人の見逃すことのできない重大な非行に対する法的な制裁措置といえます。
ただし、相続権を剥奪された相続人の子若しくは孫は、代襲相続人として相続することができます(民法887条2項)。
被相続人の意思で相続権を奪われた人物
被相続人は、一定の廃除原因があると、生前および遺言によって、相続が開始したときに相続人となるべき者(推定相続人)の相続権を剥奪するよう家庭裁判所に請求(推定相続人廃除の審判申立て)することができます。
廃除は遺言により遺言執行者から請求することも可能です。
家庭裁判所により廃除が認められると相続権が剥奪されますが、受遺者となることはできます(民法896条・897条)。
なお、廃除が認められると、被相続人の戸籍のある市区町村役場に推定相続人の廃除届をすることになります。
それにより、被廃除者の戸籍には、廃除がされた旨が記載されることとなります。
こんなときは相続割合はどうなるの?3つのパターン別に解答
被相続人が配偶者なしの場合
配偶者は常に法定相続人となりますが、その配偶者がいない場合は、法に従い優先順位で法定相続人が決まることになります。
相続人が複数いる場合は頭割りとなります。
被相続人の妻が第三子を妊娠中の場合
相続発生時に被相続人に胎児がいる場合は、生きて生まれることを条件に既に生まれたものとみなされます(民法886条)。
死産の場合は、相続人とはみなされないため、いない者として相続手続きを進めていくことになります。
祖父母が存命の被相続人(配偶者あり)の場合
被相続人に子供はいないが、配偶者と両親及び祖父母がいる場合について考えてみます。
配偶者は常に相続人となるため、法定相続人です。
第一順位の子や孫など、直系卑属がいないため、第二順位の両親が法定相続人となります。
この点、祖父母ですが被相続人に近い両親がともに存しない場合でない限り、法定相続人となることはありません。
まとめ
相続が発生し遺産分割する際、亡くなられた方が遺言書を残していると、原則、遺言に従い分割することになります。
遺言書がない場合には、相続人間で遺産の分割協議をしたうえで、各相続人が遺産を相続することになります。
法定相続割合は、公平な相続を実現する、一つのの基準となります。家庭裁判所の調停や審判でもそれに従って手続きがなされます。
そのため、遺言書の作成や遺産分割協議の際に、参考とするのもよいでしょう。
もっとも、法定相続割合に従うことが全てではありません。
相続人が納得するのであれば、法定相続割合を無視して自由に遺産分割をすることは、何ら問題がありません。
また、相続税を考慮すると法定相続割合を無視した方が良い場合も少なくありません。
遺言書の作成や遺産分割協議の際には、専門家の意見を拝借して納得いく相続を実現することをお勧め致します。
マンションなど相続不動産の売却を検討している場合は、相続の専門家と提携している不動産会社に、売却相談とともに相談してみるのもよいかもしれません。